【ステイヤーズS回顧】牝馬ホーエリートが抜群の長距離適性示す　戸崎騎手の完璧な“省エネ”騎乗も光る

2025/12/08 10:45

勝木淳

ⒸSPAIA

この記事のレース

ステイヤーズＳ

GⅡ

12月6日(土)　中山11R

ホーエリート、落ち着き払った完璧なレースでV

師走の中山名物マラソンレースはホーエリートが勝ち、重賞初制覇。2着マイネルカンパーナ、3着クロミナンスで決着した。

1800mを2周する長丁場は毎年決まって、ペースは遅い。最初の1000mは1:04.7で、13秒台が2回刻まれた。さらに中盤の1000mは13秒台が4度も入る1:05.7とさらに遅い。

ペースアップは残り1200mから。12.2-12.0-11.9-11.6-11.1ときれいにギアチェンジしていき、ラストの坂で11.6。毎年、このラスト200mで混戦になり、一歩抜け出した馬が上位にくる。鮮やかなギアチェンジを可能にするには、いかに勝負所まで体力を消耗しないことが前提になる。

長距離を走るには体力はもちろん、エコな走りで消耗を抑える賢さも必要だ。勝ったホーエリートはそういった意味では完璧なレース運びだった。内枠が当たった幸運も大きく、初手から好位のインに収まり、道中は淡々と遅い流れに対応していく。

一切、負担を感じない走りにホーエリートも気分よく勝負所を迎えられた。先に動いたブレイヴロッカーやマイネルカンパーナに内に押し込められそうになる場面もあったが、4コーナー出口でしっかり進路を確保。最後は抜け出すだけだった。

位置の上げ下げも横の動きも最小限にとどめられた。戸崎圭太騎手の落ち着き払ったエスコートが際立った。

ルーラーシップ、ステイゴールド譲りの体力

今年はじめにオープン入りを果たしてから、重賞での着差は福島牝馬S以外、1秒未満と堅実に走った。とりわけ目黒記念以降は牡馬相手のGⅡ3連戦。0.0、0.6、0.2差と力を示してきた。

この間、スタートを決め、好位に収まるエコな走りを着実に自分のものにしてきた。ステイヤーズSはその経験の大きな成果だ。父ルーラーシップ、母の父ステイゴールドという個性派の組み合わせは豊富なスタミナをホーエリートに供給する。

牝馬は一般的に牡馬と比べると、前進気勢が強い。逆に牡馬は年齢を重ね、ズブさを増す傾向がみられる。牝馬がマイル以下で結果を残せるのは強い前進気勢を利用している面がある。

最近は牡馬と頂点を競っても負けない牝馬が目立ってきたが、血統の工夫や育成の進化によって牝馬特有の前進気勢を上手にコントロールし、最後の爆発力に転用できるようになった成果でもある。

ホーエリートのように長距離であっても、ペースを抑えて走れる牝馬が今後もあらわれてくるだろう。長距離の牝馬は消しという時代ではなくなりつつある。

とはいえ、ホーエリートはルーラーシップやステイゴールドから受けとったスタミナの下地という大前提がある。ステイヤーを目指す配合は確実にトレンドではないので、そう次々と出現しない。それでもホーエリートのようなタイプはどこかであらわれる。

長距離に強い牝馬がどのようにキャリアを重ねていけば、大成するか。ホーエリートの歩みはそのヒントになる。それほど過程もレース内容も結果も鮮やかだった。

長距離適性高いマイネルカンパーナ

2着マイネルカンパーナは父ゴールドシップ譲りのスタミナが武器。馬体はその父ステイゴールドに似た小さな馬で、今回も414キロでの出走だった。

同じステイゴールド系統のゴールドシップやオルフェーヴルを配合されたきょうだいは大型馬も小さい馬も出ているので、マイネルカンパーナだけではないが、どうしても小さい馬体にステイゴールドを重ねてしまう。

極端に速い上がりにならない競馬を得意としており、今回、長距離とはいえ、勝負所の11.1で食い下がれたのは収穫だ。じっくり運べる長距離の適性が高い。

3着クロミナンスは8歳になっても、堅実な末脚は変わらない。かなり遅い長距離戦のため、前で立ち回った馬たちの競馬になってしまったが、それでも最後の伸びは目立っていた。

半年以上に及ぶ長期休養が4回もあり、なかなか順調には使えないが、その分、馬は若い。なかなか自力で勝ちに出られないもどかしさは抱えているだけに、適条件も絞れない。悩ましい状況が続きそうだ。

2025年ステイヤーズS、レース回顧,ⒸSPAIA

《ライタープロフィール》
勝木淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』（中央競馬ピーアール・センター）にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『名馬コレクション　伝説のグランプリホース』（ガイドワークス）に寄稿。