【チャンピオンズC回顧】4歳牝馬ダブルハートボンドが示した高い資質 トランセンド以来「みやこSからの連勝」で広がる未来

勝木淳

2025年チャンピオンズC、レース結果,ⒸSPAIA

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勝負の決め手は2コーナーの攻防

ダート王決定戦・チャンピオンズカップはダブルハートボンドが勝ち、GⅠ初制覇。2着ウィルソンテソーロ、3着ラムジェットで決着した。

戦前、先陣争いに注目が集まる一戦だった。内枠にウィリアムバローズとダブルハートボンドが入り、前走ジャパンダートクラシックをハイペースで逃げ切ったナルカミが外目の枠へ。

どの馬が先手をとり、どの馬が控えるのか。レース序盤、ナルカミは競りかけなかったものの、シックスペンスが先行集団に加わり、その答えは出ないまま1コーナーを迎える。

3頭雁行の形にハイペースを覚悟したが、2コーナーで力むことなく一歩引いたのが勝ったダブルハートボンド。勝因のひとつはここだろう。前走で不良馬場を逃げてコースレコードを記録した直後であっても、自然な形で引くことができた。落ち着きと賢さを兼ね備えていた。

前半1000m通過は1:00.3。12秒台前半が続き、息を入れる場面がないまま3コーナーへ突入する。チャンピオンズCが中京に移ってから、1:01.0を切るペースで進むと、最後に差し馬の決着を招くレースが増える。逃げ切れたのはレモンポップしかいない。先行集団にとっては極めて辛い競馬だった。

後半800mは12.6-12.9-12.3-12.1。コーナーでペースが落ちてから、直線で再びゴールまで上昇ラップを描いた。一旦引いたダブルハートボンドは加速しながらゴールへ飛び込んだ。

3番手に下げたとはいえ、かなり高い心肺機能でなければ加速はできない。ラスト200mで並んできたウィルソンテソーロとの競り合いは、ラップを落とすどころから加速しながらの攻防だった。ほんのわずかでもラップを落とせば、差し切られていた。紙一重の攻防を勝ち切れたのは、2コーナーで引いた判断が呼び込んだといっていい。


みやこステークスとの連勝の意味

牡馬顔負けの強靭な体力を誇るダブルハートボンドだが、デビューは3歳8月と遅く、体質は決して強くなかった。根気よく競走馬に必要な資質を身につけるまで待ち、満を持してデビューした。馬本位の方針が、大成した陰にはある。

負けたのは門別のブリーダーズゴールドカップだけ。それも2着であり、連対パーフェクトで古馬牡馬混合GⅠを制した。そんな牝馬もデビューが遅れた。競走馬は奥が深い。

わずか1年4カ月でダートの頂点に到達したのも驚きだ。ダートは芝以上に経験値を問われる世界であり、若駒が簡単には古馬の頂点クラスの壁をぶち破れない。それを上回るだけの才能の持ち主ともいえる。

ちなみに前走でみやこステークスを勝ち、チャンピオンズCを制したのは旧ジャパンカップダート時代のトランセンド(2010年)と今回のダブルハートボンドの2頭だけ。どちらも4歳で、みやこSを好タイムで逃げ切っていた。

そのトランセンドは翌年のフェブラリーステークスを勝ち、ドバイワールドカップで2着、そしてジャパンカップダート連覇を達成した。ダブルハートボンドの未来を重ねるのは早計かもしれないが、可能性は広がる。


ナルカミの今後

2着はウィルソンテソーロ。3年連続の2着だった。「またか」。陣営の落胆が聞こえてくる。競馬は勝たなければ前に進めない。ましてGⅠは勝たなければ意味はない。取材するたびに関係者からそんな声を耳にしているだけに、3年連続2着は余計に重く感じる。

枠なりに内を進んだ結果、直線でわずかに追い出しを待たされてしまった。だがその分、溜めたエネルギーは強く、差し切ってもおかしくない勢いがあった。だからこそ、余計に重い。それでも加速ラップであの末脚なら、十分に力を示した。

3着ラムジェットはフォーエバーヤング、ダブルハートボンドと同じ4歳。なかなかどうして同世代の壁は分厚い。勝負所で先にメイショウハリオより手応えが悪くなり、一度は外から交わされたが、直線で思い直したように加速して3着争いを制した。

ペースアップするとズブさがどうしても目立つため、一旦勝負圏内からはずれてしまうのが痛い。エンジンのかかりが悪いという欠点をどう補うのか。舞台適性なのか、レーススタイルなのか。改めて課題を示された競馬だった。

4着メイショウハリオは引退の予定を延ばすという報道がレース直後に出るほど、内容は濃かった。一旦は差し切るのではないかと思えるほどの迫力があり、引退撤回も納得だ。

もちろん、それもレース後の状態次第だが、今回はJRAのGⅠ制覇に向けて渾身の仕上げだった。これだけ走れれば、タイトルの上積みも期待できる。

1番人気ナルカミは13着。ダブルハートボンドが勝負に出た地点で早々についていけなくなってしまった。ここ2走は自分でペースを握ってレースを支配しており、相手強化に加えライバルのリズムで走る難しさが出た。

とはいえ、ダートは経験の世界であり、経験値の差が出ただけ。決して力負けではない。3歳馬がいきなり古馬相手にGⅠで結果を出すのは簡単ではなく、まして展開のなかでスタイルを崩してしまっては仕方ない。

厩舎の先輩レモンポップは慎重に経験を積み重ねていき、最後に逃げるというスタイルにたどり着いた。勝負服も同じであり、つい比較したくなるが、その歩みはまったく違う。3歳シーズンは突っ走ってきた一年だったが、この大敗を機に、再び力を蓄えていく時間がはじまっていく。来年が楽しみだ。


2025年チャンピオンズC、レース回顧,ⒸSPAIA


《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『名馬コレクション 伝説のグランプリホース』(ガイドワークス)に寄稿。

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