【ローズS回顧】オークス馬カムニャックが“前半4F45.3”の激流制す 適性を広げ二冠へ好発進
勝木淳

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ローズS史上最速の前半
秋華賞トライアルのローズSはカムニャックが勝ち、オークス馬の実力を見せつけた。2着はテレサ、3着はセナスタイルで決着。上位3頭に秋華賞の優先出走権が与えられた。
秋華賞を目指す一戦は予想外の超ハイペースになった。スタート直後はルージュソリテールとアイサンサンが互いに出方をうかがうような形ではあったものの、意を決してアイサンサンがハナに行くと、ペースが落ちないまま進んだ。
序盤600m34.0、800m通過45.3はローズS(阪神芝1800m)史上最速。序盤の出方を踏まえれば、よもやのハイペース。GⅠの舞台を目指す気持ちと走りやすい馬場が自然と作り出した流れといえる。これがトライアルの難しさだろう。
後半800mは11.7-11.7-11.4-11.9、46.7と外回りのハイペースになれば、最後は底力の勝負になる。夏の上がり馬にとっては過酷すぎる挑戦だった。
適性の幅を広げたカムニャック
底力勝負になれば、オークス馬カムニャックの格がものをいう。近年は秋華賞直行が定番ローテとなっており、オークス馬のローズS出走は2016年シンハライト以来9年ぶり。
1986年以降の記録でオークス馬のローズS制覇は86年メジロラモーヌ、87年マックスビューティ12年ジェンティルドンナ、14年ヌーヴォレコルト、そしてシンハライトの5頭。ローズSを最後に引退したシンハライト以外の4頭はその次走のエリザベス女王杯、秋華賞で連対を外していない。カムニャックも無事に秋華賞を迎えられさえすれば、まず崩れないのではないか。
それにしても春のフローラS、オークスはスローを溜める競馬で勝ってきたが、休み明けでマイル戦ばりのハイペースに対応したのは驚いた。幅広く対応する力はここから先、相手が強くなったときに欠かせない要素であり、二重の意味で楽しみが広がる。
思えばダンスパートナー一族の血にサクラバクシンオーを配した母ダンスアミーガはマイル戦を主戦場としていた。ダンスパートナーの血も代を経て、様々な血統を迎え入れ、進化を遂げた。その先頭にカムニャックがいる。
高速決着に対応できたテレサ
このレースは多くの不利があった競馬でもある。2着テレサも4コーナーでミッキーマドンナに外に振られる形になってしまったが、早めに先頭に立つ形から最後まで粘って2着を確保した。
春はスイートピーS6着でクラシック出走は断たれたが、6月の小倉で早々に3勝目をあげ、ここ一本に進めてきた。夏の上がり馬としては比較的余裕があるローテーションを組め、馬体重6キロ増で出走できた。本番に向けて伸びしろを感じる。
母タムニアはフランスのGⅢ勝ち馬で、その母エズデハルの兄にはブリーダーズCターフを勝ったガリレオ産駒のレッドロックスがいる。同馬はパリ大賞で2着に敗れたが、そのときの勝ち馬はレイルリンク。ディープインパクトが敗れた凱旋門賞の勝ち馬でもある。
タムニアは日本向きの血をもつ一族として見込まれ、ノーザンファームによって輸入された。今回の高速決着での粘りは早くもそれを証明したといっていい。
父アドマイヤマーズは現役時代の戦歴やその父ダイワメジャーという血統背景からマイル向きとみられがちだが、1800mの勝率も9.6%(9月7日開催終了時点)と悪くない。母系との組み合わせで中距離でもやれる。
テレサのひとつ下でコントレイル産駒コスモフィレンツェはセレクトセール1億円越えの良血であり、デビューに向け順調に栗東で調整されている。テレサの走りが追い風になりそうだ。
3着セナスタイルは連勝こそ途切れたものの、執念で優先出走権を獲得した。速い流れに乗りきれず、直線では再三、進路がなく、内へ外へと縫うような進路どりになり、それでも最後まで伸びた。母ヌーヴォレコルトの良血が底力をみせたといっていい。反面、馬体重4キロ減での出走でもあり、競馬の内容を考えても、本番に向け、ダメージが心配になる。
4着ビップデイジーは阪神JF2着の実績馬ながら、春はいま一つリズムがかみ合わなかった。仕切り直しになったローズSでは不利を受けながら、4着。走りに復調気配を感じた。2歳時の成績通り、外回り1800mの適性が高い。コーナー4つの内回りは微妙であっても、得意条件に出走した際にはマークすべきだろう。

《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『名馬コレクション 純白の奇跡』(ガイドワークス)に寄稿。
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