【NHKマイルC回顧】大舞台の底力勝負に強いパンジャタワー 3着チェルビアットもハイペースに強い血統
勝木淳

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クラシック経由かマイル路線か
3歳マイル王決定戦はパンジャタワーが勝ち、2着マジックサンズ、3着チェルビアットで決着した。マイル路線とクラシック戦線のどちらが強いか。戦前のテーマはここにあった。
30回目を迎えたNHKマイルCはかつて、ダービー出走が叶わなかった外国産馬のためのダービー、「マル外ダービー」と呼ばれた。タイキフォーチュン、シーキングザパール、エルコンドルパサー、シンボリインディ、イーグルカフェ、クロフネまで6年連続で外国産馬が勝った。
だが、時代は流れ今ではマル外という言葉すら滅多に耳にしなくなった。当然、NHKマイルCのテーマも変わる。マイルに特化した歩みでGⅠにたどり着いた馬たちとクラシック第一冠からの転戦組の力関係は毎年のテーマとなった。
マル外全盛期のマイル路線は層が厚く、強敵ぞろいだったが、近年はクラシックにより重きを置く傾向にあるため、マイル路線との差は開く一方。桜花賞、皐月賞に進むために戦ってきたという事実が重い。
今年も皐月賞6着マジックサンズが3番人気に推され、桜花賞4着5番人気マピュースとクラシック転戦組は予想外に人気を集めた。それでも1番人気は2歳マイル王アドマイヤズームであり、2番人気はニュージーランドTでアドマイヤズームを破ったイミグラントソングと、マイル路線へのリスペクトもあった。
結果は京王杯2歳S1着、ファルコンS4着のパンジャタワーが勝ち、2着マジックサンズ、3着桜花賞6着チェルビアットと、クラシック組とマイル路線組のどっちが強いか単純には決められない結末になった。そんなものだろう。どっちが強いかなんて単純な疑問に答えは出ない。それが競馬だ。
パンジャタワーに底力を伝えたソニンク牝系
とはいえ、マイル初出走のマジックサンズがGⅠ・2着だから、やはりクラシックの価値は高い。ただ、マイル出走歴なしにマイルの頂点に立つのは難しい。ましてレース展開はマイル、中距離といったカテゴリーの壁を突き破るほど強烈だった。
確固たる逃げ馬不在のなか、先行勢がお互いにプレッシャーをかけ合うGⅠ特有の馬群全体が演出するハイペースになった。前半800mは12.3-10.4-10.7-11.2。緩めたら負ける。下げたら巻き返せない。そんな緊張感が超ハイペースを呼び、前半800m44.6の急流になった。NHKマイルC史上最速の記録だ。
2位はダノンシャンティが勝った2010年44.8。当時の決着時計は1:31.4と、考えられない時計を叩き出した。
馬群全体がつくったハイペースから後半へ。後半800mは11.8-11.9-11.6-11.8で47.1。先行勢だけが苦しいわけではなく、各馬、伸びそうで伸びきれない。そんな攻防が直線で繰り広げられた。
パンジャタワーは底力勝負を中団から押し切った。外目を抜け出し、バテかけたところでゴール。これ以上ない仕掛けのタイミングだったといっていい。
父タワーオブロンドンは2018年NHKマイルC1番人気12着。その後スプリントGⅠを勝ったことも手伝い、パンジャタワーもマイルへの距離不安がいわれた。実際、1400mで重賞を勝ち、マイルGⅠ大敗、1400m重賞で4着と、再度の距離延長は問題なしと結論づけるのは難しかった。
しかし、タワーオブロンドンは朝日杯FS3着、アーリントンC1着とマイルでからっきしでもなかった。タワーオブロンドンの母の母シンコウエルメスの一族からは、皐月賞馬ディーマジェスティやステイヤーズSを勝ったオセアグレイト、同2着エルノヴァと中長距離型が出た。
そして、パンジャタワーの母の母はアコースティクス。ネオユニヴァースとの間にダービー馬ロジユニヴァースを出したソニンク牝系だ。パンジャタワーの母の父はヴィクトワールピサ(ネオユニヴァース産駒)なので、ネオユニヴァースとアコースティクスの名前が並ぶという熱い血統図でもある。
もちろん、パンジャタワーが中距離型になるとは考えていないが、東京マイルの底力勝負で最後に伸びる可能性は血統表にあった。今後はハイペースを求め、距離を縮めるかもしれないが、大舞台の底力勝負ではマークしておきたい存在だ。
武豊騎手の決め打ち炸裂 マジックサンズ
2着マジックサンズはこれぞ決め打ちの武豊騎手といったところ。マイル戦特有の速い流れに付き合わず、後方から直線一本。それも内しかみていない。外を回しては勝てない。一発あるなら内しかない。ユタカマジックがさく裂した。
ただし、鞍上の好騎乗が着順に上乗せされている点とあくまで中距離型である点には注意しよう。父キズナは短距離系やスピード血統と相性がよく、2000m前後の活躍馬が多い。
3着チェルビアットは桜花賞4着マピュース5番人気に対し、12番人気は盲点であり、クラシック転戦組の穴馬はこの馬だった。悔しい。
母はキューティゴールドなので、姉にはジャパンCを勝ったショウナンパンドラがいる。さらに母の母はゴールデンサッシュであり、ステイゴールドと同じ一族でもある。
フィリーズレビューも14番人気2着と激走しており、ハイペースで大穴を提供するのがパターン。一方で戦歴は6戦1勝。収得賞金は1450万円なので、準オープンから再出発する。当然、人気に推されるだろうが、上位人気で勝ち切れるかどうか。このタイプは得てして相手が下がっても勝てない。ハイペースで大穴を提供するあたりも含めて、なんとなくステイゴールドに重なる。
1番人気アドマイヤズームは14着。ハイペースを好位でまともに受けてしまっただけでなく落鉄の影響もあったのか、走りのバランスが悪く早々に手応えがなくなった。一旦、休養してリセットできるか。注目したい。
強かったのは4着モンドデラモーレ。個人的にファルコンSの頃からハイレベルなジュニアC組に注目し、なおかつジュニアC勝ち馬ファンダムの毎日杯優勝で確信に変わり、ハイペースを粘る姿に感動すら覚えた。
ダービーに向かうファンダムは皐月賞組の上にいけるのか。皐月賞6着のマジックサンズを基準にすると微妙だが、可能性は残した。

《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『オルフェーヴル伝説 世界を驚かせた金色の暴君』(星海社新書)に寄稿。
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