【天皇賞(秋)】3歳馬は始動戦の色が濃い一戦 古馬実績最上位で死角が少ないシャフリヤールに期待

山崎エリカ

2022年天皇賞(秋)出走馬のPP指数,ⒸSPAIA

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34年間、逃げ切り勝ちなし

天皇賞(秋)は1987年のニッポーテイオー以来、34年間も逃げ切りが決まっていない。歴史上は1991年にプレクラスニーが逃げ切り勝ちを収めているが、これは1着入線したメジロマックイーンの降着によるもの。

1998年にサイレンススズカは5F57秒4の驚異的なタイムで通過したものの、大欅の向こう側に消え、2015年のエイシンヒカリはデビュー戦以来の折り合う競馬を選択。また2017年は逃げると思われていたキタサンブラックは出遅れ、デビュー以来初の後方から道中追い上げる形となった。サイレンススズカで逃げた武豊騎手がその後、積極的に逃げなくなったのは、天皇賞(秋)が行われる東京芝2000mは、良馬場でも逃げ切るのが難しいと知っているからだろう。

なぜ難しいのかというと、Bコース替わりなどの影響も多少あるが、東京芝2000mは1角奥のポケット地点からスタートする。このことが一番の理由だと言える。このポケットは東京芝2000m専用のため、芝状態がとても良く、各馬の出脚がつきやすい。また、スタート直後にコーナーを迎えるので、外枠の馬はすぐに内に切り込んでくる。逃げたい馬はそれに抵抗して序盤から加速し、2角で先頭を奪うという意識で騎乗しなければならない。

序盤からスピードに乗せて行かせたうえに、さらに次の3角までの距離が長いとなると、逃げ馬は容易に息を入れられない。レースの前半3F目までが速くても、4F目で息を入れれば、最後の直線で余力を残せる。しかし、4F目でしっかり息を入れないと、最後の失速に繋がる。

今年もパンサラッサの逃げが想定され、例年同様に緩みなく流れる可能性が高いと見る。ただし、現在の東京芝は超高速馬場。あまり後ろ過ぎると届かないし、外枠の差し馬は最初のコーナーを直角に入って行くことになるため、不利なコースでもある。好位の直後~差し馬有利の展開になると見て、予想を組み立てたい。

能力値1~5位馬の紹介

2022年天皇賞(秋)出走馬のPP指数一覧,インフォグラフィック,ⒸSPAIA


【能力値1位 シャフリヤール】
昨年のダービー馬であり、秋のジャパンCでも3着と好走した素質馬。前記のジャパンCは三冠馬コントレイルが自己最高指数で優勝したレースだが、同馬とは0.5秒差。4番枠から1角で位置を取りに行く際、バランスを崩して内ラチに激突する不利があった。また、4角でコントレイルに外から蓋をされ、前のオーソリティとの間に挟まれそうになり、怯む場面がありながらもよく頑張ったと見ている。そういった不利などがなければ、コントレイルとの差をもっと詰められていた可能性が高い。

本馬は前々走のドバイシーマクラシックで優勝したが、それまでの実績を考えれば順当な結果だろう。同レースは時計の掛かる状況だったが、それなりのペースでレースは流れた。そんな中を2列目の最内から最後の直線で早めに動き、しぶとく抵抗するオーソリティをラスト100mで競り落として優勝。本馬はここで自己最高指数を記録しており、完璧なレース内容だった。

前走のプリンスオブウェールズSでは4着に敗れたが、勝ち馬State of Restとは0.6秒差。このレースは超絶スローペースで流れた中で、2番手といい位置を取れた。しかし、休養明け好走後、それも自己最高指数を記録した後の一戦。そんな状態で2角以降は上り坂(スウィンリーボトム)という英国でもトップクラスにタフなコースのアスコットで、よく粘っていたと見る。

本馬は不良馬場の神戸新聞杯で3着に敗れたことから、世間では「高速馬場巧者」と言われているが、決してそうではない。ただ超絶高速馬場で行われた昨年のダービーを優勝しているように、現在の東京の超高速馬場もこなせる。芝2000mも合うだろう。パンサラッサが逃げると緩みない流れが予想され、そういった流れでは内が有利であるのと同時に、番狂わせも起こりにくいもの。また高速馬場ならスタミナが不足する休養明けの馬も走りやすく、今回の本命候補としたい。

【能力値1位 マリアエレーナ】
デビューからずっと芝のマイル戦を中心に使われ、善戦はするがなかなか勝ちきれない成績が続いていた馬。しかし、3歳6月に初めて芝2000mに使われると1勝クラスを勝利。そこからは芝2000mを中心に使われるようになり急上昇。あっという間に昨秋のOPクラス・新潟牝馬Sを勝利するまで成長した。

今年に入っても愛知杯2着、前々走のマーメイドS2着と好成績を残し、牝馬重賞を勝てるだけの力は見せていた。驚かされたのは牡馬に混じっての一戦となった前走の小倉記念。2番枠から好発を切り、そこからハナを主張するようにしてペースを引き上げ、好位の内と完璧な入り方。3列目の最内から3角まで最短距離を走り、4角でシフルマンに蓋をするようにして手応え良く先頭に立ち、そこから突き放して5馬身差の圧勝。破格の好指数を記録した。

前走は超絶高速馬場ではあったが、特殊な馬場ではなく、まさに実力の勝利。前走時の指数は今回の相手でも全く見劣りしない。前走同様に走れば、ここも十分に優勝が期待できるが、問題は体調面。普通の競走馬なら前走であそこまで走ってしまうと、かなり疲れが残ってしまい、次走では凡退することの方が多い。本馬の潜在能力が想像以上に上がっていれば、ここもあっさりと言うこともあるが、さてどうか。期待もあるが、不安もある。

【能力値3位 ジャックドール】
昨年4月の阪神芝2000mの未勝利戦を破格の指数で勝利した馬。その次走プリンシパルSではさすがに疲れが残ってしまったようで結果を出せなかった。その後は休養し、9月に戦列復帰するとその素質が覚醒。1勝クラス、2勝クラス、3勝クラスの3戦全てで、1クラス以上、上の水準にあたる指数を記録しての楽勝。

そして3走前の金鯱賞では3番枠から好発を切ってハナを主張。5F通過59秒3のなかなか速いペースで引っ張り、3~4角で再加速してラスト3F目に後半最速の11秒0を刻んでの逃げ切り勝ち。超高速馬場と言えるほど高速馬場ではなかったが、自ら緩みないペースで逃げ、レコードタイムに持ち込んでの自己最高指数での優勝だった。

前々走の大阪杯は自己最高指数を記録した後の一戦らしく、4番枠から好発を決められず、外から同型馬が競ってくる中でペースを引き上げハナを主張。前半5Fを58秒8で通過し、ややオーバーペースの逃げ。本来の能力を出し切れなかった。

また前走の札幌記念では、パンサラッサやユニコーンライオンなど、逃げ馬が多数出走しており、それらとの兼ね合いが心配されたが、外のユニコーンライオン、内のパンサラッサを行かせて、2列目の外で折り合う競馬。3~4角で位置を押し上げ、4角2番手からしぶとく逃げ粘るパンサラッサをクビ差捕らえて優勝した。

今回もパンサラッサやバビットなどの逃げ馬が出走。1番枠のマリアエレーナや4番枠のポタジェも積極的に出していきたい馬だが、前走時のようにスムーズに折り合う競馬ができれば問題ないだろう。自分のリズムを崩さずに走れば、ここも上位争いに加われる。

【能力値4位 パンサラッサ】
不良馬場で行われた京都芝2000mの2歳未勝利戦を高指数で圧勝し、スタミナの豊富さを感じさせた馬。当時はスピード不足の面があり、自分の得意な形に持ち込むことができず、結果、瞬発力不足でやや足りないレースが続いていた。しかし、昨秋の福島記念では超ハイペースで逃げて4馬身差の圧勝と化けた。

その次走の有馬記念は福島記念の走りが強すぎて状態面にお釣りがなく、13着と大敗。しかし、年明け初戦の中山記念では福島記念と同様に超ハイペースの逃げ。他の先行勢を全て失速させる、強い内容の逃げ切り勝ちを収めた。続くドバイターフも中山記念から指数は下げたが、緩みないペースで逃げて優勝した。

このように本馬は楽に逃げれば強い馬だが、前々走の宝塚記念のように立ち遅れて好発を決められなかったり、前走の札幌記念のように二の脚が遅く、楽にハナに行けない場合もある。前走は3番枠だったが、11番枠から楽にハナに立った同厩舎のユニコーンライオンに譲ってもらっての逃げだった。

今回は同型馬バビットが12番枠に入ったことで、楽に逃げられる可能性が高い。しかし、ゲートを決められなかった場合に一抹の不安を感じるのも確か。ただ、スタートを決めて無理なくハナを主張できれば、緩みないペースで逃げたとしても、上位争いに加われると見ている。アメリカン的な逃げを打つ、こういうタイプが案外、歴史を変えるのかもしれない。

【能力値5位 イクイノックス】
新馬戦を圧勝し、その次走の東京スポーツ杯2歳Sも楽勝した素質馬。東京スポーツ杯2歳Sでラスト2Fを11秒9-11秒4での優勝には驚かされた。超スローペースになることが多い新馬戦ならば、最後まで加速することもある。しかし、緩みなく流れる重賞のペースで最後まで加速できるとなると、よほどの能力の持ち主でないと難しい至難の業。本馬はこの時点でGⅠ級の潜在能力を持っていることを感じさせた。

その後は休養明けの皐月賞でいきなり2着、続く日本ダービーでも2着。非凡な能力の持ち主であることは疑う余地がない。確かに日本ダービーはデシエルトが折り合いを欠いて大逃げを打ったことで、差し有利の流れを18番枠から出遅れ、後方の中目で進めたことが功を奏した面はあった。ただ昨年のシャフリヤール同様、キャリア4戦目で通用したことがその成績以上に褒められる。

ただ今回は休養明け。また前走の日本ダービーで後方からレースを進めた後の一戦で、距離短縮となると、序盤で置かれて追走に苦労する可能性が考えられる。かなり不利な材料を抱えての始動戦と言えそうだ。高い潜在能力にものを言わせて、ここを突破する可能性もあるが、順当ならここを叩いて1着賞金4億円まで増額した次走のジャパンCで能力全開と見るべきか。どちらにしても今後の活躍から目が離せない馬だ。

穴馬はパンサラッサが引っ張る流れは向くカラテ

カラテはもともと芝の中距離を使われて低迷していた時期が長かったが、芝マイル戦を使われるようになってから本格化。2021年1月の3勝クラス若潮Sでオープン級の指数を記録すると、その次走で東京新聞杯も優勝して重賞ウイナーとなった。

その後も当然芝マイル戦を中心に使われ、オープンでも上位争いする実力馬となった。前走は久々に芝2000mの新潟記念を使われ、トップハンデ57.5Kgを背負いながらも好位の中目で流れに乗り、堂々の優勝を決めた。芝のマイル戦を使われているうちに潜在能力が大きく上昇していたのかもしれない。もしそうであれば、本馬は芝中距離馬として第2次上昇期に入ったことになる。

振り返れば今年のパンサラッサが優勝した中山記念でも、中団の外から長く良い脚を使って2着に来ている。今回はさらに相手が強化されるが、パンサラッサが引っ張る流れはこの馬にとって向く可能性はある。

※パワーポイント指数(PP指数)とは?
●新馬・未勝利の平均勝ちタイムを基準「0」とし、それより価値が高ければマイナスで表示
例)シャフリヤールの前々走指数「-25」は、新馬・未勝利の平均勝ちタイムよりも2.1秒速い
●指数欄の下線、茶色はダート
●能力値= (前走指数+前々走指数+近5走の最高指数)÷3
●最高値とはその馬がこれまでに記録した一番高い指数
能力値と最高値ともに1位の馬は鉄板級。能力値上位馬は本命候補、最高値上位馬は穴馬候補

ライタープロフィール
山崎エリカ
類い稀な勝負強さで「負けない女」の異名をとる競馬研究家。独自に開発したPP指数を武器にレース分析し、高配当ゲットを狙う! netkeiba.com等で執筆。好きな馬は、強さと脆さが同居している、メジロパーマーのような逃げ馬

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