【フローラS】オークス照準のエリカヴィータと強行軍のパーソナルハイ 馬場と展開を味方につけた好騎乗
勝木淳

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逃げの名手、吉田豊騎手
春の東京開幕週の芝は、先行勢が好走の大半を占め、外を回るとアウト。最近の春開催は開幕週でも差しが決まり、開催が進んで仮柵が設置されると先行有利という傾向だったが、今年は極端に内有利な状態だった。Aコース使用は昨年秋開催前半以来。その昨秋は傷みがさほどなく、芝は良好な状態。東京の芝は夏に大規模修繕を行い秋が一番状態が良く、そこから春までがひとつのサイクルになる。今年の芝は好循環で春を迎えた。
逃げ、先行、内優位の馬場状態で行われたオークストライアル・フローラS。本番出走権は2着以内。重賞実績のないメンバー構成、そこに東京芝2000mで大きなウエイトを占める枠順が加わる。桜花賞0.2差6着パーソナルハイにとって2枠3番は絶好枠。昨秋は東京で逃げてナミュールの2着。マイルの速い流れでは先手がとれないが、2000mなら先手主張は可能。だから枠順を最大限に生かして逃げた。
騎乗するのは吉田豊騎手。パンサラッサで中山記念とドバイターフを逃げ切り、矢作芳人厩舎の信頼を勝ちとり、再び大舞台に戻ってきたベテランだ。パンサラッサ覚醒のきっかけも吉田豊騎手。昨秋東京芝2000mオクトーバーSで大逃げを打った。差す印象も強い吉田豊騎手だが、クリスザブレイヴ、サイレントハンターなどかつてお手馬に逃げタイプも多かった。
吉田豊騎手に惑わされなかった田辺裕信騎手
パーソナルハイは2コーナー付近で外からシンシアウィッシュに絡まれかけるも、前半200~800m11.6-11.4-11.8と譲らない姿勢を見せて、相手を引かせた。そこから後ろが差を詰めにくい、動けない地点で一気にペースダウン。見た目はシンシアウィッシュとの差が開いたように見えても、そのラップは12.5-12.6-12.8。吉田豊騎手の絶妙なさじ加減の幻惑戦法が決まった。3、4コーナーできっちり息を入れ、最後の600m11.6-11.4-11.8では後方待機組は逆転できない。
馬場と枠順を味方につけたパーソナルハイの逃げを唯一捕らえたのが勝ったエリカヴィータ。こちらはテン乗りの田辺裕信騎手が騎乗。吉田豊騎手にも負けない逃げの名手。こちらも普段は差し競馬が多いものの、ロゴタイプでモーリスを完封した16年安田記念は印象深い。
そんな田辺騎手だからこそ、パーソナルハイの逃げを利用したのではないか。内有利な馬場で2番枠。内狙いは作戦通り。すぐ横のパーソナルハイが行く構えを見せると、好位の内をとった。2コーナーで外からマイシンフォニーが同じ位置を取りにくると、譲らない構えを見せる。ここが勝負の分かれ目。この内の4番手というポジションを守ったことで、パーソナルハイを差しきれた。
最後の直線では前が壁になり、追い出しを待たされながらの勝利。田辺騎手の好プレーも光ったが、距離延長でエリカヴィータもリズムよく走れたことで、自身の力をしっかり発揮した。さらに距離が延びるオークスも楽しみだ。
8枠を克服したシンシアウィッシュ
1、2着馬が内枠を利して、巧みな立ち回りを見せたなか、3着シンシアウィッシュは8枠14番。デムーロ騎手は枠順の不利を積極的に前へ行くことで覆そうとした。パーソナルハイに競りかける勢いで主張したため、周りが引いて2番手を確保。外枠でもなんとか出走権を取ろうという意図の見える競馬だった。それだけに出走権を逃すハナ差は悔いが残る。
4着マイシンフォニーは2コーナーでパーソナルハイの背後、内のポジションを取れなったことが響いた。前半1000m1.00.2、中盤緩む流れを中団前の内6番手でも厳しかったように、先行勢絶対優位の馬場に泣いた印象。今後も中距離路線へ進んでほしい。
後方から上がり最速33.6で差して5着だったルージュエヴァイユなど展開と馬場に翻弄された馬が多かったレース。次走以降で巻き返しそうな馬も多く、その点も覚えておきたい。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。共著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ全4作(星海社新書)。
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